趣意書
3月11日の大震災で亡くなられた方々に衷心より哀悼の意を表しますとともに、被災された多くの皆様の生活の速やかな復興をお祈りいたします。
アート界においても、募金やチャリティなど、今回の大惨事に対するアート関係者の誠意ある対応が現れ、私も強く共感しています。しかし、震災のショックで大多数の人々が深く傷つき消沈している現在、またいくつかのアートの活動が中止あるいは延期の状態に追い込まれている様を目撃するにつけ、残念な気持に陥らないではいられません。アートまで活動を停止させることがあっていいのだろうか?
アートこそ、このような非常時にあって、人々を救うための最良の社会的メディアであるはずなのに。しかし、それは物質的な力ではなく、即効性のある支援を実行することはできません。しかし、心のケアに関することであれば、それこそ専門分野であり、人々を慰めたり励ましたりすることは、アートの効果のひとつとして、すでに公に認知されている事実であると考えます。とはいえ、アートをこのような重要ではあるけれども、プラグマティックな役割に限定してしまうなら、それは他の文化活動と置き換えられても、なんら支障はない。
少々遠回りではありますが、アートを、その存在意義に立ち戻って再考すること。それをアートに関する様々な知識から組み立て直し、今回のような未曾有の出来事に遭遇したときに、アートが柔軟で積極的な力を発揮できるよう準備を整え、それを衆知のものとする努力を地道に重ねていかなければならない。そこで私は、現在まで私自身が積み上げたアートの経験をもとに、現代アートに関するアーカイヴを立ち上げ、収集した情報を全面的に活用したアートの授業を行う学校を開くことに決めました。もとより、アートをめぐる知識を取得するだけでは、その本質に到達することにはなりません。アートに、言説やデータに還元できない過剰さがある所以です。しかしながら、その過剰を自覚するためにも、逆に知識は必要とされる。知識を超越する知識の習得によって、大惨事にもへこたれないアートの強靭な力が見出されるのではないか。これが、アートを学ぶ場を、あえてこの困難な時期に開設するに至った第一の理由です。
したがって、この学校で伝達される知識は、けっして一般の学校(とくに美術学校)では教えない内容になると予想されます。この学校は、アートを専門にする学生やアーティストばかりでなく、アートに関心を抱く一般の人々に、アートの制度に閉じこもった活動ではない、(美術館やギャラリーで出会うとしても)社会に開かれたアートを紹介する場になるでしょう。もちろん、アートの諸潮流を紹介することで十分とは思いません。その教育目的は何か?
ずばり「アートとは何か?」を知ることです。アートの存在意義が大きく揺らいでいる(それは、今回の危機でアートが自己の無力にショックを受け茫然としている姿からも明らかです)。したがって、被災からの回復を、何もなかったかのように以前の状態に復帰することですませてはならないし、おそらくそのような解決策では、アートは、今回受けたトラウマと失意から立ち直ることはできないでしょう。もし、アートがこの事態に対して無力なら、なぜそうなのか? われわれのアートに欠けているものがあったとすれば、一体何か? これらについて熟考することが要請されている。
しかし、このような反省は、日本の現代アートにだけ求められているものではないと考えます。21世紀に入って、9.11と金融危機の衝撃をきっかけにして、全世界に突きつけられた重大な課題ではないのか。世界から一斉に発せられる問い掛けに対して、どのような回答を見出すことができるでしょうか。それは、世界のアートの活動を観察すれば、おのずと見えてくるかもしれません。学校は、そのようなヴィヴィッドな世界のリアルタイムな反応を教示します。その意味でも、他の学校では受け取ることのできない資料を提供する貴重な場になるはずです。
学校の名前は、“Art School”。それは、この学校が、資本主義に従属するのではないグローバルな視野を意識していることの明確な徴です。またそれは、少なからず野心を隠してもいる。なぜなら、新たなアートを目指す意志を表明しているのですから。それは、特殊なものでしょうか、それとも普遍的でしょうか? その問いは開かれたままになっています。なぜなら、この抽象名詞は、アートの定義に対する呼び掛けであっても、答えはまだ出されていないからです。回答を出すのは、そこで学ぶ人間の一人ひとりでしょう。それは、アートを学ぶ人間自身への問いでもあります。「アートとは何か?」とは、「人間とは何か?」と等価だからです。人間の自己探求としての“Art School”。その姿勢は真剣で誠実ですが、遊びの精神を忘れないことが、回答に達する近道だと確信します。
以上に趣旨を説明した活動は、静かに一歩を踏み出します。小さな種をまき始めます。MAGIC ROOM??? という自由な空間の温かい協力を得て。4月8日が、その新たなスタートのときです。
3月末日
市原研太郎
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